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東京高等裁判所 昭和32年(く)40号 決定 1957年4月24日

少年 S(昭和一四・九・一八生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告理由の要旨は、僕は昭和二十六年に窃盗をやり○○○の実習学校に行き、同二十九年に窃盗と喧嘩をやつた外は何も悪いことはしていません。今度の事件は僕が三年前から交際していた女性と家出して半ヶ月位同棲していたところ、この女性の家から捜索願が出て手配されたその女性は鑑別所に保護されてしまいました。そして二人の家出の理由は間借して二人で自活したいと思つたからでした。そこで僕は警察署に出頭して右女性といれかわりたいと願つたのですが断わられた上に、一日署にとめられて鑑別所に送られてしまいました。このこと以外に保護される理由は全くありません。僕の親も女性の親も家に帰つて真面目に働くならば引き取つて世話し将来二人を一緒にしてやるといつています。僕は十六日間いろいろ考えてみましたが、確かに今まで僕のやつていたことは悪かつたと思い、審判の時には泣いて謝りました。僕の父も涙を出して謝りました。僕は親のありがた味が心からわかりました。これから親に心配をかけないで安心させたいと思います。僕は大工の学校に行くと父に誓いました。ところが原審は中等少年院に送致する決定をしましたし、右女性は未だ家に帰れないで△△寮に居り気の毒でたまりません。僕を少年院に送らないで、早く家に帰していただき早く父を安心させてやり又右女性を一日も早く迎えたいと思いますというのである。

よつて関係記録を精査するに原決定が認定したような事由(少年法第三条第一項第三号該当)はすべてこれを肯認することができ、この事由に依拠してなした申立人を中等少年院に送致する旨の決定は洵に相当の処置と考えられるのみならず関係資料によるも原決定には少年法第三十二条に掲げている本件原決定を取り消すを相当とする理由は、毫も発見することを得ない。それ故本抗告はこれを採用するに由ないのである。

よつて少年法第三十三条第一項小年審判規則第五十条に則り本件抗告を棄却すべく主文のとおり決定する。

(裁判長判事 大塚今比古 判事 渡辺辰吉 判事 江碕太郎)

別紙(原審の保護処分決定)

主文および理由

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(事実)

少年は、保護観察中の者であるが、更に反省の色なく中学生当時から知合のK子(当一六年)を誘惑し、昭和三十一年八月頃から不純な交友を続け再三にわたり二人で家財を持出し、家出をなし旅館等で不純な関係を続け、又又昭和三十二年一月二十七日頃自宅から商品のカメラ三台を持出し、同女と共に家出をなし、同女が家から持出した衣類等を金に替え横浜市○○区××町△△△△番地T方二階八畳間を兄妹の学生と称して借受け、徒食して不純な関係を続けていた者で自己の徳性を著しく害し正当なる保護者の監督に服さずその性格環境に照し将来罪を犯す虞があるものである。

(保護処分に付する理由)

第一、少年の非行歴及び処遇歴

少年は、小学校時代より盗みを始め、昭和二十六年九月頃児童相談所を経て教護院○○実習学校へ収容され、昭和二十七年九月同校を退校し××中学校へ転校後も不良と交り昭和二十九年八月九日(中学三年生の時)窃盗保護事件により当裁判所において保護観察に付され今日に至つているが保護観察に付された後も益益学友の不良と交り、前記K子との交際もその頃始めたもので非行は止むことなく窃盗、虞犯、恐喝などの事件で当裁判所へ繰返し、繰返し送致され当裁判所は昭和三十一年六月十一日再び保護観察に付して反省を促したが、その後も傷害、暴行事件で送致される状態で前記K子との家出も再三に及び今回また前記の非行をなすに至つたものである。

第二、少年の資質及び環境

鑑別の結果によると少年の知能はほぼ普通であるが、学力は著しく低く意思不安定で被暗示性が高く、頑くなで反省の情がなく、気分易変的であり倫理感情も薄く環境に支配される性格であるとされている。このことは度重なる非行によつて認められ、意思の弱さと容易に環境に支配されることから怠学、徒食が続き勤労意慾が全く欠けるに至つたものである。少年の家庭は実母が早く亡くなり少年と継母との間は融和が欠けている様であり実父は少年に対して庇護過剰にして盲愛するばかりで保護能力は充分とは認められない。少年は保護観察中遵守事項を全然守らず父親も保護司に非協力的な状態であり、保護司としても在宅保護の限界を越えているとの意見である。

以上少年の性格、家庭環境とを併せ考えると少年を施設に収容して反省の機会を与え、その性格を矯正することを必要と認め少年法第三条第一項第三号同法第二四条第一項第三号を適用して主文のとおり決定する。(昭和三二年三月一一日 横浜家庭裁判所 裁判官 高井清次)

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